反応管 ヘキサン平衡圧ビューア ― 仕様書

用途:密閉反応管(等容系)内の純ヘキサンの平衡圧と相状態を、温度・充填量・容器体積から算出・可視化する単一HTML。
版:grid v1 / 作成 2026-06-19 / 姉妹:水版 / メタノール版 / 水–メタ混合版

1. 実装方式(裏側)

裏側は、ヘキサンの参照状態方程式(Thol et al. 2019)をオープンソースの計算ライブラリ(CoolProp)で事前に計算して早見表にした後、それをHTMLに埋め込んでブラウザ上で補間表示しています。重い物理計算は「作るとき」に一度だけ済ませ、「使うとき」は表を引く(補間する)だけなので軽い。計算サーバーは不要でブラウザ内だけで完結します。

段階処理使用
① 事前計算温度×密度の多数の組合せで圧力・相を計算し早見表(JSON)化Python + CoolProp(n-ヘキサンHEOS)
② 埋め込み早見表+描画+表示プログラムを単一HTMLに同梱build.py
③ 表示スライダー入力に対し早見表を補間して即時表示(計算なし)JavaScript / Plotly.js

2. 早見表(事前計算グリッド)

早見表は 温度 409点 × 密度 401点 = 約 16.4万点 の圧力値と、各温度の飽和テーブル(飽和蒸気圧・飽和液/蒸気密度)・臨界点ノットから成る。手計算の物性表が数十点なのに対し、本ツールは約16.4万点を事前計算して保持しているため、補間の根拠が密で信頼性が高い(臨界点直下は温度刻みを0.1℃に細密化)。327℃超の格子点は参照式の妥当範囲外(外挿・参考値)。

早見表の中身(抜粋)— 単相圧 P_single [MPa]

T\ρ (kg/m³)50200500655
100 ℃0.2460.2460.24659.55
200 ℃1.5891.80610.64132.3†
300 ℃2.2545.55438.01199.0†
326.85 ℃2.4226.57745.25216.0†
360 ℃ ※外挿2.6267.83854.10236.6†
400 ℃ ※外挿2.8699.35564.61260.9†

読み方:100℃で ρ=50/200/500 が同一圧力なのは気液二相域(圧力=飽和蒸気圧 P_sat(T) で、密度=充填量によらず温度のみ)。200℃で ρ=50 だけ僅かに低い(1.589<1.806)のは飽和蒸気密度(≈63 kg/m³)を下回り単相蒸気に入るため。右端 ρ=655 は圧縮液(液体ヘキサン)で高圧。臨界温度(234.67℃)超の行(300/326.85℃)は単相で、密度とともに圧力上昇するが、P≥Pc(3.04MPa)で超臨界・P<Pcは気体様(例:300℃・ρ=50 は 2.254<Pc なので気体様)。実ツールはこの格子を相境界をまたがず補間して連続表示する。360/400℃ は327℃超の温度外挿域(参考値)。
† P>92 MPa(n-HexaneのEOS圧力妥当上限)=圧力方向の外挿・参考値。満充填に近い圧縮液域(≒T≥150℃ かつ高充填)で生じる。現実的な低充填の操作域(例:充填率40%で ρ≈262)は全温度で数MPa〜十数MPaに収まり妥当域内。

3. 物理モデル

4. 物性定数・グリッド仕様

流体 / CASn-ヘキサン(C₆H₁₄) / 110-54-3
状態方程式Thol et al. 2019(n-アルカン参照式・n-ヘキサン), CoolProp 7.2.0 実装
臨界点T_c = 234.670 ℃ / P_c = 3.0441 MPa / ρ_c = 233.171 kg/m³
室温密度 ρ_room654.854 kg/m³(25℃, 1atm)/ 659.384(20℃)
EOS妥当範囲T: 177.83–600 K(=−95.32〜326.85℃)/ p ≤ 92 MPa(いずれも超過は外挿・参考値。温度は327℃超、圧力は満充填近傍の圧縮液域で生じる)
温度軸25–400 ℃、1℃刻み+Tc近傍を0.1℃に密化(327℃超は外挿・参考)
密度軸0.5–700 kg/m³、非一様(0.5–1:0.5 / 1–50:1 / 50–200:5 / 200–500:2.5 / 500–700:1)(401点)

5. 温度範囲の根拠

ヘキサンの参照式は妥当上限が 600 K(326.85℃)で、超えると外挿になる。一方、HEOS の外挿は 400℃まで数値的に滑らかで、「分解しなければこうなる」参考値として実用的な要望がある。そこで 400℃まで拡張し、327℃超は外挿・参考値として明示する(UIに警告表示・グラフに破線+網掛け・温度軸下に「↑327℃ 外挿域」表示)。臨界温度 234.67℃ を超えた 235–400℃ の延長部は全て単相(密度に応じ P≥Pc で超臨界・P<Pc で気体様)。(参考:使える温度上限はEOSの適用範囲で決まる。水版は IAPWS-95 が高温まで妥当なため高温域に強い。)

外挿の素直さの裏取りとして立方型EOS(Peng-Robinson)と照合すると、気体〜中密度域では数%以内で一致するが、高密度の圧縮液域では十数〜20%以上乖離する。これは多パラメータHEOSに対し立方EOSが高密度液で精度を落とすため(外挿の信頼性低下というより立方EOS側の限界)であり、温度外挿の妥当性裏取りは主に気体・超臨界の中低密度域に限られる。

327℃超の表示はあくまで参考値。ヘキサンは引火性が高く、高温で熱分解(C–C結合解離による低分子炭化水素生成)しうるため、純成分平衡はこの温度帯では特に理想化された値。

6. 室温密度の選択(655 / 659)

室温密度は「室温で量った液量(mL)→質量」の換算係数。封入後は質量一定(等容)なので、入れた時点の密度だけ要り、高温での密度変化はEOSが担当。655=25℃実測、659=20℃(ヘキサンは温まると膨張=低密度化)。実際の測定温度に合わせて選べる。この選択は物性グリッドに無関係=再計算不要で表示値のみ即更新。

7. 妥当性(検証)

8. 限界

表示は純ヘキサン成分のみの平衡圧。初期ヘッドスペース気体・反応/分解生成ガス・容器熱膨張・溶質や木材由来成分は含まない=総圧でも安全設計値でもない。ヘキサンは引火性が高く、高温で熱分解しうる。

327℃超(温度のEOS外挿域)は参照式の妥当範囲外の外挿値。特に高温では熱分解の影響が実圧に大きく影響する。ツール表示は「分解しなければこうなる」理想値として参考のみ。

満充填に近い圧縮液域(おおむね P>92 MPa=EOSの圧力妥当上限超)は圧力方向の外挿・参考値。現実的な低充填の操作域は妥当域内(充填率40%なら全温度で数MPa〜十数MPa)。

臨界点(234.67℃)近傍±3℃(上下とも)の相・気液量は参考値。設計用途には安全率と実ガス分を別途見込むこと。データ範囲 T=25–400℃(327℃超は外挿),ρ=0.5–700 kg/m³。

9. Q&A

質問回答
何で圧力を計算?等容系の仮定で、温度と全体密度を状態方程式(CoolProp/n-ヘキサンHEOS)に入力。二相域は飽和蒸気圧。
充填量から何を出す?室温密度をかけて質量に直し、容器体積で割って全体密度 ρ。これが状態を決める。
水・メタノールと何が違う?臨界点が3つの中で最も低い(234.67℃/3.04MPa vs メタ240℃/8.2MPa, 水374℃/22MPa)。低いPcのため200℃台前半で早く超臨界へ。引火性が高い非極性溶媒で、EOS妥当上限も低い(327℃。400℃まで表示するが327℃超は外挿)。
精度は?CoolProp直接計算を参照値に補間誤差を検証。操作域 p95≈0.028%、最悪でも圧縮液隅で≈0.5%。EOSの絶対精度ではなく実装の補間精度。
なぜ約16万点も?相境界付近や圧縮液域・臨界近傍は圧力が急変するため、密な格子で補間誤差を抑えるため(臨界直下は0.1℃刻み)。
安全設計に使える?不可。純成分平衡圧であり、反応・分解ガス・溶質を含む総圧ではない。

10. 参考文献・リンク